「保健師助産師看護師国家試験出題基準 平成30年版(以下、“新出題基準”と表記)」が2017年3月30日に厚生労働省から発表されました。これを受けて実施された第107回看護師国家試験では、新出題基準での追加項目から35問の出題がありました。ここでは、これらの問題の難易度や正答率について分析を行いました。
第107回看護師国家試験における新出題基準
❶出題基準はどれくらい変わった?
平成26年版出題基準から30年版にかけて、必修問題の出題基準の約14%(小項目269項目中、38項目)、一般・状況設定問題では約22%(小項目1784項目中、400項目)に新規追加項目がありました。
❷新出題基準からどのくらい出題された?
第107回国家試験では、全240問中35問(必修問題2問、一般・状況設定問題33問)が新出題基準で追加された項目による出題でした。割合にすると約15%であり、国試が大きく変わるのでは、という実施前の不安に比べると、思っていたほど多くはないといえるでしょう。
❸新出題基準で出題された問題の正答率は?
追加項目による出題35問のうち、およそ3分の2にあたる22問(必修問題2問、一般・状況設定20問)で正答率が80%以上となりました。一方、残りの13問のなかには、正答率が50%を下回る問題もいくつかみられました。

次の項目からは、必修問題、一般・状況設定問題に分けて、具体的にどのような問題が出題されたのか、また正答率はどうだったのかをみていきましょう。
必修問題
50問中2問が新出題基準の追加項目による出題でしたが、どちらも基本的な内容の問題であり、高い正答率となりました。
実際に出題された問題と正答率を確認してみましょう。
1.CRP
2.尿素窒素
3.アミラーゼ
4.ALT〈GPT〉
正答率:96.4%
基本的な検査項目に関する問題で、実習やその事前学習でほとんどの学生が認識している内容であることから、非常に高い正答率となりました。
1.アドレナリン
2.テオフィリン
3.ワルファリン
4.バンコマイシン
正答率:99.4%
新出題基準の追加項目のなかには、過去問で出題歴のあるテーマもあります。この問題も過去の国家試験で似たような問題が複数回出題されていることから、過去問に取り組んできた受験生であれば容易に解くことのできる問題でした。
【考察】
今回、必修問題で出題された新出題基準の2問をみると、新出題基準で新たに追加された項目ではあるものの、一般的によく知られている知識や、過去問に出題歴のあるもの、実習で頻繁に登場する基礎的な内容が問われていることがわかります。正答率も非常に高いため、必修問題では特別な新出題基準対策は必要なく、これまでと同様の学習方法で十分カバーできると考えられます。
一般・状況設定問題
一般・状況設定問題における新出題基準追加項目に関する問題は、正答率が80%以上の高いものと、50%以下の低いものの大きく2つに分かれました。大半の問題(新出題基準33問中20問)は、①今までの国家試験で出題されているテーマや、②授業や実習で身についている基本的な知識を問うものであり、正答率も80%を超えていました。
高正答率問題の例
血液製剤等の取り扱い
1.看護師は麻薬施用者免許を取得できる。
2.麻薬を廃棄したときは市町村長に届け出る。
3.アンプルの麻薬注射液は複数の患者に分割して用いる。
4.麻薬及び向精神薬取締法に管理について規定されている。
正答率:97.6%
本問は、①新出題基準の追加項目ではあるが今までの国家試験で出題されているテーマ、に該当します。
麻薬に関する問題は、これまでの国家試験でも使用状況の記録や保管方法などについて頻繁に出題されていたため、過去問をしっかり勉強していれば容易に解答できる問題だといえるでしょう。
医療を安全かつ円滑に行うために,救急外来のリーダー看護師に求められる役割として誤っているのはどれか。
1.チームで患者情報を共有する。
2.スタッフの役割分担を明確にする。
3.患者誤認が生じないように注意喚起する。
4.電話による安否の問い合わせに回答する。
正答率:98.5%
本問は、②新出題基準の追加項目ではあるが授業や実習で身についている基本的な知識を問うもの、に該当します。
救急外来の状況設定ですが、内容的には看護師の守秘義務について問われています。基本的な知識であり、その分、非常に高い正答率となっています。
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ほかにも、午前98番「起立性低血圧の予防」【新出題基準テーマ:起立性低血圧】や、午後68番「紙カルテと電子カルテの比較」【新出題基準テーマ:医療情報・看護情報】など、常識的に考えれば解ける問題やしっかり読んでイメージすれば解ける問題の正答率が非常に高くなっていました。
一方、正答率が80%を下回った問題も新出題基準33問中13問ありました。これらの問題は、①学生が学んでいた知識の範囲外であった新テーマの問題や、②過去に出題があったものの新項目追加に伴い出題のされ方が変わったために正答を導きづらい問題であったと考えられます。
低正答率問題の例
アプローチ、ハイリスクアプローチ
1.費用対効果が高い。
2.成果が恒久的である。
3.一次予防を目的とする。
4.集団全体の健康状態の向上に貢献する。
正答率:46.8%
予防医学に関してはこれまでの国家試験でも出題がありましたが、第107回ではさらに一歩踏み込んで、「ハイリスクアプローチ」という用語の意味や具体的な活動内容まで把握していないと解けない難易度の高い問題が出題され、正答率が低下しました。
1.内視鏡室で勤務する看護師
2.精神科病棟で勤務する看護師
3.血管造影室で勤務する看護師
4.一般病棟で勤務する夜勤専従の看護師
正答率:74.9%
新出題基準で「健康診断・健康診査」が明示されたことに伴い、これまでは法制度と関連しての出題が多かった健康診断について、その内容も問われるようになりました。本問は特殊健康診断の対象となる有害業務の具体的な内容に加え、血管造影が放射線に暴露する可能性がある検査であることを理解していないと解けない問題であり、その分難易度は上がったと考えられます。
【考察】
一般および状況設定問題では、新出題基準の追加項目から出題された問題の大半が過去の国家試験ですでに出題されたことのある内容や、常識・基礎的な知識で解答可能な問題でした。上記で紹介したように、一部、難易度の高い問題も出題されましたが、正答率が低い=多くの学生が解けない問題であるため、合格を左右するものにならない可能性が高いでしょう。
第108回国試の対策はどうする?
- ここまで述べてきたように、第107回国試で出題された新出題基準追加項目の問題をみると、ほとんどの問題が教科書や過去問を中心とした勉強方法で対策をしておけば解答できる問題でした。したがって、新出題基準に関して、特別に手厚く対策をする必要はないと考えられます。
- 第108回国家試験の新出題基準対策としては、まず基礎的な知識を身につけ、過去問を中心に頻出テーマをしっかりと勉強するという従来どおりの国試対策を徹底することが重要です。
- とはいえ、新出題基準での追加項目のうち、第107回では出題されなかった項目についてはひととおり確認しておくことも必要です。国家試験では近年のトピックスが出題されやすい傾向にあるので、なかでもそういった項目は要チェックです。たとえば、第107回では近年感染者が急増している梅毒に関する問題が出題されています。日頃からニュースに関心をもち、それを糸口に学習を進めるのも良い方法です。
第108回国試対策 新出題基準予想問題
第107回では問われなかった項目から、近年話題になったトピックスをふまえて予想問題を作成しました。
晩産化
1.出生数は150万人である。
2.第1子出生時の母親の平均年齢は約25歳である。
3.出生率は10.0である。
4.日本では晩婚化がすすんでいる。
虐待の早期発見
1.児の特徴として,全ての事例に身体損傷がみられる。
2.代理によるミュンヒハウゼン症候群では,児に先天性疾患がある。
3.ネグレクトも虐待に含まれる。
4.虐待が疑わしい場合は,すぐにその理由をつきとめる。
『新出題基準で国試はどう変わった?』のまとめ
- 第107回国家試験では、全240問中35問が新出題基準で追加された項目による出題であった
- 新出題基準の追加項目による35問のうち、22問で正答率が80%以上であった
- 第108回国家試験の対策として、過去問を中心とした従来どおりの対策を徹底することが重要となる
- 新出題基準のうち近年話題になったトピックスに関する項目は出題される可能性が高いため、話題となったテーマをチェックしておく